Se connecterジョーたちが村を出た後も村の再建は日常として続いている。
住む場所は人間の基本だからできるだけ速やかに取り戻さなきゃいけない。 多少体制が変わってはいるけれど。 まず、新しく焼きあがったルンカーで新しい窯を作った。 前の窯よりふた回り大きい窯を作った事で、生産スピードが上がった。 粘土質の土でドームを作っただけのものと違って、焼きあがるたびに補修する必要がなくなったのも能率が上がった理由だ。 ヘレンが雑木林に入る時に護衛につくのがオギンの役割として割り振られた。 これによってジャリとジャスの仕事が中断される事がなくなって、これも生産速度の向上につながっている。 ジャスは時々ルダーについて行って畑の管理を分担してる。 もちろん僕もたまに畑には出向くけど。 畑にはジョーのキャラバンから仕入れたデーコンの種などを植えたのでルダー一人に任せるというわけにいかなくなったからだ。 仕入れたのは葉物野菜や根菜なので、収穫サイクルが早い。「だから
「それ!」 と飛ばすと、玉はこちらも町から提供した鉄の板の的に命中する。 距離は百カルほどだろうか。「これ、この通りめり込むだけなんじゃよ。もっとこう……威力を上げられんものかの?」 なるほど。「どれくらいの距離なら貫通できますか?」「五十シャルというところかの。これでは『石の弾丸』と変わらん」「オギン」「はい」「この威力はどうなんだ?」「はい、概ね想定通りの威力です」「何? この程度なのか?」「はい、現代の戦において『鉄の弾丸』は主将の警護にあって最接近を許した際の一撃必殺手段ですから」「つまらんの」 僕もそう思う。 というより、魔法使いが接近戦なんてしちゃダメだろうよ。 だからちょっと地球知識を持ち出すことにした。「射出速度を上げることはできますか?」「速度?」 前世知識は地球の単位を前提にしているのでこっちの世界に丸々持ってくるのは難しい。 特に速度計算に必須な時間の単位が変換不能だ。 こっちで使われているのは一年=十三ヶ月、一ヶ月=二十五日、一日=二十時間までだ。 時間に関していえば正確な時を刻む装置がないんでおおよそだ。 この世界は地球でいう春分が新年で、新年の正中から翌日の正中までを二十で区切っているだけ。 人の手指が十本あることから、昼を十時間、夜を十時間で数えているわけだ。 さて、以上のことから数字で語るのは難しい。 そこで僕は落ちている大きめの小石を二つ拾い上げ、一つを軽く投げてみるとコツンと壁にぶつかる。 そしてもう一つを野球選手よろしくビュンと投げる。 カツンと鋭い音がした。「ふむふむ、気づかなんだ。矢ほどの速さがあれば十分と思っておったが、確かに矢も弓の引き手によって威力が違うことがあったやもしれん。そうか……ぐふふ。速さの……どれほどはやめれば良いと思う?」 魔法の弾丸は、サイズにもよるけど、なんとか視認できる
例年、育つのを待つだけの夏から収穫までというのはそんなに忙しくない。 ……はずなんだけど、この町はもうずっと忙しい。 農作物の育成を見守り、新たな開墾を進め、収穫後に来る男爵との対決のための軍事調練とやることが多いからだ。 人口規模が百人を超え、みんなで作業を手分けできるようになったので、ここを乗り切れば楽になる……なんて楽観視していたのは会議まで。 僕は、ここだけじゃ忙しさが緩和されることはないんじゃないかと思い始めていた。「オギン」 暑さも和らいできた晩夏、僕はオギンに隣村まで行ってもらうことにした。「何を見てくればよいのでしょうか?」「畑の広さ、村の様子、周辺の地形あたりかな?」「ご自分で視察なさるというのはいかがですか?」 ……そいつぁ気がつかなかった。 僕は転生してから一度も村を出たことがない。 おぉ! いいじゃん、いいじゃん! それ最高!!「じゃあ、明日朝一で出発だ」「明日はラバナルに会いに行く日ですが」「そうか。じゃあ明後日だ。イラードに連絡しといて」「イラードを連れて行くんですか?」「いや、町をイラードに任せんの」「供は?」「え? オギンだろ?」「…………」「何か、問題でも?」「……いえ、お館様の仰せのままに」「道程三日って言ったっけ?」「歩いて行けばそれくらいですね」「じゃあホルスに乗って行こう。今時期なら畑仕事には使っていないし」 ということになって、翌日ラバナルを訪ねて隣村に行く件を話す。「──で、今後そういうことも増えると思うんで、十日に一度に変更してもらえませんか?」「む? ふむ……お主が村にこもっておっては見聞も広がらん。よかろう」「ありがとうございます」「いやいや、ワシもお主との話で新しい魔法の思案に時間を使いたくなっておった頃合いじゃ。等価交換じゃよ」
これは領地経営の問題だ。 その都度、町をあげての防衛戦を余儀なくされる。 食糧生産は継戦能力の根幹だ。 日本は太平洋戦争中、南方戦線でひどい目に遭っている。 ニューギニア戦線など実に死者の九割が餓死という話があるくらいだ。 それを考えていると、籠城戦は町にとってジリ貧の悪手なんじゃないかと思い始めている。 進むも地獄、戻るも地獄とはこのことか。 進んで修羅の道に入るなんて、聞いてないよ! 神様ヘルプ! だよ。 それはいい。 僕は食料生産計画をルダーに一任する案を出す。「そんなに食料生産って重要なのですか?」 と、ピンと来ていないイラードに答えたのは、戦争経験者(ただし前世)のジョーだった。 必要性の詳細な説明をしてくれたんだけど、こりゃもうどう聞いても南方戦線に従軍していた経験談だべ。「当たり前のように食事を支給していただいていましたから、キャラバンではそんなこと全然気にしていませんでした」「嫌ってほど身に染みてるからな。食料だけは儲けを削ってでも確保していた」「俺も小さい頃、ひもじい思いをしたからよく判る。食うもの食ってないと腹に力が入らないんだ」 と、同じく(前世で)戦争体験のあるルダーがいうので、圧倒的に説得力がある。「冬の間に後背地の開墾をしたいところだけど、ここは山間地でもあって雪深い。防衛線の合間合間に開墾ってのは難しいだろうな」「合間は狩猟と雑木林の手入れだな」「ああ、それは俺も気になっていた。貴重な山林資源を村の復興のために随分と利用したんだろ?」 確かに。「牧畜の方は?」「クッカーの卵はもう売ってるだろ。配給するには数揃わないけどな。クッカーの食肉出荷は早くて三ヶ月後。こっちも配給品にするほどの数は無理だ。もっとも、各家庭で飼っているところもあるから、商品としては割に合わないかも。来年にはジップの乳が出荷できるくらいにはなると思う。肉はあと二年先かな?」 クッカーは復興前の僕ん家でも飼ってたからな。
「それならまともな射撃戦ができそうですね」 と、ザイーダが言う。 イラードはやっぱり少し気に入らないようだけど、なんだ、フェミニスト的観点なのか? それとも、女は銃後派なのかね?「ズラカルト男爵の春現在の現有戦力は大体三百人。最大動員数六百人と見られています」 と、オギン。 そんなに?「だが、それは領内全体の話だ。他領との領境に守備兵は必要だろう」「ここを単なる田舎村と侮っているだろうし、せいぜい二、三十人で威嚇すれば大人しくなるくらいに思っているだろ」 カイジョーの意見にジョーが同意する。「違いない。お貴族様は外聞もお気になされる。村相手に初手から全力なんてなさらねぇよ」 敬語風だけど、見下した感満載な言動だな。「緒戦は戦闘にもならねぇ。二度目も十中八九勝てるだろう。問題は本気で攻めてくる三戦目だな」 僕もそう思う。 収穫後、徴税にくる役人(たぶんオルバックJr.)を追い返すのがこちらの初手だ。 一度取って返したジュニアが手勢を連れて威嚇するのがカイジョーの言う緒戦。 いまだにこちらの人口規模も把握していないぐらいだから、こちらが武装して門から出てくだけで、一戦も交えることなく勝てるだろう。 それを追い散らしたら男爵の軍が動く。 これが実質的緒戦になる。 これが正規兵で二、三十人ってのがジョーの見立てた人数だろう。 で、町の戦力組はその程度なら十中八九勝てると踏んでいる。 この見解はカイジョーだけでなくイラードもオギンも同意見のようで、男爵兵を侮っているわけではなさそうだ。「じゃあ、この件は後日細部を煮詰めるってことで……」
主の森騒ぎのごたごたで延期していたジョーとの首脳会談は、主に会いに行く前日に朝イチで開かれた。 今日は絶対長丁場になる。 出席者は全員覚悟の前である。 ちなみに僕とジョー以外の出席者は前世持ちのルダー。 町の行政を任せているイラード。 軍事を任せるつもりでジョーが連れてきたカイジョー。 明日も僕を護衛して森に同行する予定のオギンの四人。 場所はお館囲炉裏の間。 まずは冒頭、イラードによる町の現状とオギンによる森の主についての報告。 質疑応答も含めて、これだけでたっぷり午前中を使い切った。 昼飯はジョーの執事カーゲ・ストゥラーさん夫妻とザイーダに用意してもらったちょっと豪勢な肉料理。 提供はジョーのキャラバン。 町の家畜はまだ出荷できるほど整備されていない。 そして、食べながら会議の続きだ。 昼食中の議題は男爵対応。 一時間ほどの昼食時間で、ジョーが収穫前にキャラバンを町に戻すことに決まった。 これで町の人口は百三十人を優に越すことになる。 キャラバンはその性格上男性比率が高く、戦闘力の高いものが多い。 現状、地の利以外で男爵に勝てそうなのは一部個人の戦闘力くらいだからね。「秋までふた月あまり。比較的手の空いている今のうちに軍事調練をしたい」 という僕の提案はカイジョーの全面的支持を受け、承認される。 その際、志願の女性弓兵も導入することになった。「最悪、投石兵でいい。白兵戦になったら退却させる」 日本でも古来「飛礫」「印地打ち」と呼ばれ、有効な戦闘手段だった。 ラバナルの石の弾丸は魔法を使った投石と言える。 お手軽安価な武器だ。 野球のように投げても数十シャルは飛ばせるし、投石器を使えば有効射程距離百シャルに届くかもしれない。 女性でも遠くまで投擲できるだろう。 僕の前世の
ひと汗かいたあと、日が暮れる前に館に戻った僕は、風呂を焚いて湯船につかる。「お館様お戻りですか?」 と声をかけてきたのはクレタだった。「今風呂」 と、声をかけると、風呂場に回ってくる。 いや、おまっ……ちょっと!?「あ、お館様」 僕は口まで湯船に沈めてアソコを隠す。 お前、今年十三歳だろ! 女の子だろ! 僕、今素っ裸で風呂入ってるよね? ちょっとはそこら辺考えろよ。「相談なんですけどぉ」「……それ、今じゃなきゃダメ? 風呂上がってからじゃダメ?」「あー、じゃあ、待ってます」 ほっ。 …………。「何か?」「『何か?』じゃないよ。ここで待ってたってダメでしょ」 頭の上に「?」並べんじゃないよ。「……上がるまで囲炉裏の間で待ってなさい」「はーい……」 なんでそこ、しぶしぶなん? クレタが風呂場から遠ざかったのを確認して、僕はあたふたと湯から上がって体を拭き、なんちゃって浴衣をはおって囲炉裏の間へ向かった。「で? 相談って何?」「回覧板の件なんですけど……」 去年あたりから僕は重要事項など通達を回覧板で行なっていた。 識字率の向上は、ただ覚えるんじゃダメで、必要だと思ってもらうためと、向こう三軒両隣、交流を図る目的で始めた。 始めたんだけど、反お館派がちっとも字を覚えてくれないのと、流入人口の増加で識字率は低止まり。 読めない人のためにクレタとカルホに一軒ずつ回ってもらっているため、ちっともご近所さんの交流促進に役立っていない。 その回覧板制度が、うまくいっていないってことだった。 うん、今、クレタには主に子供相手の読み書きの先生をお願いしているんだけど、回覧板回しているとそっちが全然できない状態なのね。 あ・ちなみに紙はまだ生産できていなくて皮紙も貴重品ということで、現在回覧板は本当に
「人生やり直せたらなぁ……」 そう思っていたことが僕にもありました。 ありましたが……。 だからってこれはないんじゃないでしょうか? こんな状態で前世の記憶が蘇るとか、神様の仕業だとしたら「あんたバカぁ!?」って罵ってやりたい。 いいや、一発殴らせろ。 こんな切羽詰まった状態だが、現在の状況を冷静に確認分析だ。 まず、ここは村はずれの雑木林をちょっと入
僕は十五歳の朝を木の枝の上で迎えた。 この世界の元服、つまり成人の儀式が行われる日だ。 確かに一生忘れられない日にはなったけど……切ない。 あまりにも切ない。 秋とはいえ、昼頃になればそれなりに暖かくなる。 今日は天気もいいので昼頃にはむしろ汗ばむほどの陽気になった。 慎重にあたりの気配を確認しつつ、木から降り集落に戻ると、まだプスプスとくすぶっている焼け跡の中を歩く。 あたり一面、嫌な臭いが立ち込めているのは、村人の焼けた臭いだろう。 昨日から何も食べてないのに込み上げてくる胃液を吐き出し
「逃げたのはガキ一匹か」 と、僕の真下で傷だらけのごつい男が言っている。 こいつが盗賊団の頭目と見た。「へい、多分」「多分だと!?」「へ、へ……」 あたふたした下っ端が頭目にぶん殴られ、仰向けにぶっ倒れる。 気絶してろ! 盛大に気絶してろよ、でなきゃここにいることがバレる。 僕の祈りは天に通じたのか、そいつは白目をむいて動かない。「このさらに奥に行ったかもしれませんぜ」「ならいい」 頭目は、一言吐き捨てて踵
さて、ここからは前世の記憶をフル活用だ。 襲ってきたのは、十数人の盗賊団。村には女子供を含めて三十人ちょっと。ここは本当に農村の一集落だった。 ん? この世界は前世知識的にどれくらいの文明水準なんだ? くそっ、ど田舎の未成年じゃ参照知識がなさすぎる。 異世界転生ものならそれなりの環境に生まれ直させろっての。 ──って言っても仕方ないわけで、そもそもテンプレの神様にあった記憶がない。 現世の記憶を手繰り寄せてもなろう系のお作法である知ってるゲーム世界的な場所でもなさそうだ。 あ、もっとも僕、







